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TBSラジオ『すべて忘れてしまうから、今夜一緒に語りませんか?』
出演:燃え殻、堀井美香
(2020年7月12日放送より)

燃え殻さんがリスナーからの人生相談的なことに答えていました。

(25歳・女性リスナーからの相談)

私は4月に同棲していた彼氏にフラれてしまいました。一生分の好きを使い切った気持ちです。でも、多分どうしても元に戻ることはないんだなと感覚でわかります。

考えたらいくらでも涙が出るし、諦められる気もしないのでもう二度と泣かないように、思い出さないように無理矢理、記憶にふたを閉めました。写真も捨てて、データを消して、SNSはミュートしました。うまくふたが閉められていて、考えることも減ったし、泣くこともなくなりました。でも、いつかきっと思い出さなければいけない時がくるのかなと思っています。

今はただ悲しいの気持ちから目を逸らしてるだけで肝心なところは何も克服できていないことも自分でわかってるんですが、ふたを閉めた悲しみをいつか受け止めるのが怖いです。それでも一生ふたを閉めたまま死ねるんでしょうか。


燃え殻 25で死ねる・・・堀井さん、どう思います?

堀井美香 私もほら25×2生きてるんで・・・ちょっと、こんな時のピュアな気持ちはもう・・・一往復してるから。

燃え殻 そうなんだ。僕、悩み相談とか、こうやってあるじゃないですか。でね、僕文春オンラインでね、悩み相談やってた時にね、本当にね「東へ行け」とか「南へ行け」みたいな、ズバッと相談答えるそういう正しい人だと思ってるんですけど、人生相談って。

堀井美香 一刀両断してね。

燃え殻 でも、わかんなくて。その人にもよるしなぁ、気圧にもよるしなぁって、いっつも思ってててね。だから、今の状況だったらこうかなあとかいうくらいしか答えられないんです、いっつも。だから、これだけじゃなくて解決しないかもしんないですけど、それでもいいのかなってちょっと本当に果汁80%くらいになるくらいの話でもいいんだったら・・・

堀井美香 薄まってる感じがいいと思います。

燃え殻 いいっすか?

堀井美香 薄めていく方向で。

燃え殻 で、あと・・・そうっすねえ・・・僕なんか・・・自分の好きな・・・「好きが全部使い果たしてしまった」って書いてあったじゃないすか、今。なんかバカリズムさんの言葉で、これバカリズムさんがふざけて言ったのかちょっと忘れちゃったんですけど、「心は折れない。棒状じゃないから」って言ってたんですよ。オレね、僕の中では結構大切にしていて「なるほど」と思ってて。で、今、なんか「自分の好きを使い果たした」って言ったじゃないですか。でも「好き」もお金と違うから使い果たさないと思うんだよなぁっていうのは一個思ったのね。僕が最初に書いた小説は自分が一生このコのことが好きなんじゃないかって思ったコをFacebookでたまたま見つけちゃうっていう小説なんですけど。でも、それでも何年か経ってて、自分の人生は進んでて、もうこのコがいなかったら僕は死ぬんじゃないかくらいのこと思ってたのに、普通に他のことで悩んだりしてんですよ。で、もっとつまんないことで悩んだりとか、その時より重いことで悩んだりとかしてんですよね。で、そういうもんじゃないかなって思ってて、だからその「心にふたを・・・」って言うけど、さっきのその心が棒状じゃないように心にもふたって無いでしょ、きっと。だから・・・のどごしがいいし、多分そういう風に言いたくなっちゃうんだけど、心にはふたをしたいし、自分の好きは使い果たしたって言いたいけど、でもそんなことなくて。なんか、その次、その次の良いことと悪いことがね、こうラリーみたいに起きてね、それがまあ、じゃあふたがあったとしまして、ずっと抑えて生きてるとするでしょ?で、それがある時パカっと開いて、出てきた時に本当にそれがすげえ悲しくてその時もまた泣けるかっていうと・・・。僕の経験ですよ、僕、あのずっと二十年くらい言えなかったことってのがあって、他人に・・・・・・二浪してんですよ、オレ。

堀井美香 ずっと、言えなかった?

燃え殻 言えなかったの。

堀井美香 今まで?

燃え殻 そう。なんかねえ、こうやってイジメられたことがあるとかね、そういったことはねエッセーに書いたりはできたんです。もっと言うとそれは書けることだったと思うんですよ、僕の中では。ただね、二浪したってことはね、僕の中で消化してなかった。

堀井美香 うん、うん、うん、うん。

燃え殻 それは人に言える恥ずかしいことじゃなかったんですよ、きっと。それでね、たまたま去年くらいにふと言えて、自分の中のふたが開いてね、出てきたらオモシロ話に変わってたんです。

堀井美香 フ、フ、フ、フ、フ。

燃え殻 で、新宿の変なね、ロフトみたいな所で話したんですけどね、自分のみっともないことを話せよみたいなことで追いこまれて、その話をしたんですよ。したらさぁ、みんなそんなことはどうでもいいんだけど・・・みたいな感じで流したの。オレは二十年間これを言ったら、みんながもう相当引くし、二浪して大学行ってないんですよ、僕は。専門学校に行って、その専門学校は更にツブれてるんですよ。

堀井美香 駐車場になってたという・・・

燃え殻 そう。これがね、もうね自分の中のねえ・・・駐車場になってるくらいまではこれは話してもいいだろうことなんですけど、その手前の二浪がねえ・・・。

堀井美香 いやでも、全然なんか、今、二浪してんですよって言った時、悲壮感無かったし・・・

燃え殻 無かったでしょ?

堀井美香 ああ、っぽい、っぽいって思ったもん。

燃え殻 二浪っぽいってねえ・・・。

堀井美香 っぽい、っぽい。

燃え殻 二浪顔してるよねえ?って。

堀井美香 私も一浪なんで、全然、別に。一浪も二浪も三浪もなんか別に変わんないじゃないですか。

燃え殻 変わるわ!

堀井美香 いや、いや、変わんないですよ。

燃え殻 えっ、それ一浪、言えました?「私、一浪なんだけど」って

堀井美香 「一浪なんだけど」っていうか、自然にバレますよね。特に「一浪です」って言わなくても「歳いくつ?」とかなっちゃうと。

燃え殻 飲み会とかでバレないじゃないですか、でも。

堀井美香 飲み会ではあえて、別に・・・「堀井美香といいます。一浪です。」って言わないじゃないですか。

燃え殻 いや、でも、大学で話をしてたら「なんかわかんないけど、一コ上っぽいな」みたいな。

堀井美香 アァ、アァ、アァ、なるほどね。

燃え殻 なんかじんわり、にじませるんですか?

堀井美香 そうですね。みんな知ってた感じですか。

燃え殻 はぁ・・・・・ボクの二浪はねえ、もう深くて・・・僕の周りがみんな大学行っちゃったの。だからね、二浪してんのにね、大学行ってるフリとかしてた時がある。

堀井美香 病んでる・・・病んでる・・・。

燃え殻 クヒオ大佐みたいな・・・なってたんです。それがあったからね、ずっと言えなかったんですよ。これがやっと、今のメールで言うところのふたが開いてねえ、出てきたらものすごい悲劇じゃなくて、ある種喜劇で。なんかそういう、今はこれは一生のトラウマかもしれないなって思ったりとか、絶対に他人にバレてはいけないことがあるとか・・・それは今もありますけど、二浪以外でもね。

堀井美香 私もあります。あります、あります、誰も知らないことが。

燃え殻 誰も知らないことがありますよね?

堀井美香 うん。言うわけないじゃんとかありますよ。

燃え殻 風呂場でたまに泣いたりしますよ。でも、それがいつか、もしかしてね、またまた喜劇というか、みんなが知っても「そういうこともあるよね」くらいの話になってんのかもしんない。

堀井美香 うん、うん、うん。

燃え殻 それで大丈夫だったと思うんだよなあ・・・ってこんなんじゃダメっすかね。

堀井美香 今日の気圧的には・・・これで大丈夫です。なんか、彼氏とかも忘れられない彼がいるとか言ってね、何年後かに会うと結構衝撃的な感じに変わってたりとかしますもんね。

燃え殻 ありました?

堀井美香 「エッ!何の裁きを受けたんだろう?」ってくらいの。「何でこんなにへしゃげた?」っていう時とか・・・。

燃え殻 ありました?

堀井美香 私は無いですけど。

燃え殻 他人のせいにしますか・・・。

堀井美香 ・・・たまにあります。

燃え殻 ・・・だからね・・・その内、笑えたりしますよ。