TBSラジオ『美村里江の本棚とんとん』
2020年7月05日放送より
出演:美村里江

TBSラジオの番組『美村里江の本棚とんとん』で美村里江さんが前野ウルド浩太郎『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』について話されていました。


■前野ウルド浩太郎
『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』
(光文社 2020年)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334950880
81o+5978LuL


美村里江
続いて2冊目です。これはテレビにも出演なさっていた方なのでご存知の方も多いかな?前野ウルド浩太郎先生の書かれた『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』です。これは2017年の10月に発売した新書なんですね、最初は。その本が元で、私も書評の仕事をやっているので、3ヶ月以内の発売の本というところで、これが出てすぐにご紹介したんですけども、これはもうあらゆる角度の方におもしろく響いて、前野先生大人気になるだろうなと思ったらその通り大人気になりまして、テレビで見た方もいらっしゃるんじゃないかなと思うんですが。今回、私、ずっとやってほしいなと思っていたことが夢が叶いました。この“ウルド昆虫記”という冠をつけて児童書として生まれ変わったんですね。『バッタを倒しにアフリカへ』は表紙にウルド先生がバッタの格好、扮装をして、虫取り網を斜めに構えているという、なかなかすごい「オッ?」って思う表紙で売ってたんですけど、私もそれで元で手に取ったんですけど、それをちゃんと引き継いで絵になってるんですよ。ちょっと『ファーブル昆虫記』のような写実的な絵になってるんですけど、ちゃんとバッタの扮装のウルド先生が前にいらっしゃるんですよね。「まあ、楽しそう!」というところなんですけど。

中身も大変よくできてましたね。児童書というところで、すごく読みやすい本ではあるんですけど、ちょっと科学的な話だったりとか、世界情勢の話とかも出てくるのでこの辺りどうやって消化されてるのかなと思ったら、素晴らしいですよ。まずね全部にルビがほとんど振ってあるんですね。小学校3年生以上に習う漢字には全てふりがなを振っていますということで3年生からであれば、っていうかもう小学校1〜2年生からですか、読める子は読めると思いますね。それだけではなくて、文字ですね。やっぱ大人向けに書いたものなのでちょっとわかりにくい言葉なんかを辞書的に解説がついてるんですね。バッタくんが頭をひねって「これ、なあに?」みたいな顔してるんですがそれもすごく素晴らしくて生きた辞書ですね、これは。単純に何か今、出来上がっている大人向けの辞書から引っ張ってきたのではわからないだろうから、子供にも伝わる言葉でということで前野先生がいろいろ試行錯誤なさったのが出てますね。例えばです。「いかがなものか?」これに対して「それってダメじゃね?」と大人っぽく表現。そうだな、確かにそうだな、って思いますよね。あとは「ところがどっこい」いや、そうじゃなくて「こうなんすよ」を説明するための前フリ。もうね、いやいやいや、もうウルド先生の素晴らしい語学力ですよね。ご本人は「そんなに文章書くのがあれだから・・・」ってご謙遜なさってるんですけど、本当に読みやすくて、躍動感があって、体温のある文章なんですよね。だから読んでると本当に元気になるんですよ。

一つのことに熱中して、アフリカに行って、バッタの研究をし続けるんですけど、その中でもバッタの研究をし過ぎて、触りすぎてバッタアレルギーになってるんですよね。その中で公用語がフランス語の中で英語で何とかしていくとか、結構強盗とかもいるような地域だったのでその中でセキュリティをどうするのかとか、いろんなことに試行錯誤なさっていくんですけれど。バッタは公害というので今ニュースで見たことがない方の方がいないぐらいでしょ?もう世界的な問題になってますね。あれかな?日本だとイナゴの大群とかで北海道の開拓史とかにもよく出てくるのかな。ですけど、このサバクトビバッタくんは“トビバッタ”というだけですごい飛ぶんですよね。成体になった時に100キロ以上、私、他で見かけたのだと140キロ以上飛ぶというのがありまして、今他人事の地域でもどこにでも来る可能性があるんですよね。3ヶ月ぐらいで寿命が来るという話なんですけど・・・ってことはお話が出てきたのが3月ぐらいですか。あれがちょっと問題となって、多分ずっと問題はあったんですけど、世界中の人に聞こえるようになったのが3月ぐらいだったので、そこからもう経ってますから多分、第2世代、第3世代になって、下手すると環境が良ければもっと増えてしまうんですって。ということで本当に食料の問題とかにもなってくるんですが、前野先生はずっとその問題に携わっております。どれぐらいハードなことをやっているかというと、このアフリカのその地帯で、赴任先では日本の国土のほぼ3倍の広さを100人足らずのスタッフでカバーして、バッタがどこで発生してしまうかっていう情報をシェアしてると。これ、単純計算すると、日本で6番目に大きい秋田県を一人だけで管理すると。もう「ほぼ無理ですよね」っていうようなことをやっているんですって。

ニュース見てる方、身近な虫を想像して考えると「そんなの殺虫剤でヤッちゃえばいいじゃん」って思うと思うんですけど、ここにまた問題がありまして、これも前野先生が書かれているんですけど、このバッタを倒す殺虫剤がなかなか毒が強いんですって。以前はドラム缶でそれを入れた物を使ったら外に放置してたそうなんですけど、そうすると何でも使おうという精神の方々が家の資材にしたりとか、水のタンクにしたりとかで使ってしまって、健康被害が大変なことになってしまったと。健康被害が出てしまったので今となってはそのドラム缶にちゃんとシリアルナンバーもやって、廃棄処分の方も徹底してやってると。この話を聞くとどれぐらい扱いを慎重にしなきゃいけないものかっていうのがわかるので、人が住んでる所においそれと散布はできないわけですよね。そうなると「これにどう対応するんだ?」っていうのはもうありとあらゆる博士の方々が携わってると思うんですけど、前野先生もねお忙しくしてらっしゃると思います。いつ終わりが来るのか、またねいろんな国との連携とか、制度の違いとかっていうのが難みますから、なんとかこの辺りは人類一体となって立ち向かうことができたらいいなと思うんですが。でも虫を知ってる人間からすると、大群でしょう?凶暴になっていて、肉食でっていうとなかなかの問題です。これが放送する頃にはまだ問題解決してないでしょうけど、こんな感じで前野先生のような方々がご苦労なさって守ってくださっております。

でですね、また前野先生の夢ある物語に戻りますけれど、前野先生のお話は本当に全体的におもしろくて、アフリカに渡ってまだ若い研究者としてやっていく中でのご苦労だったり、自分の中の葛藤っていうのを大変魅力的に体温が伝わる状態で書かれていて、本当に読むとパーッと一瞬で読めてしまうような読みやすい文章なんですね。終わりに読んで「なるほどな」と思ったのがこの視点って「今の方々、ちょっと恥ずかしくて引っ込めてるからかもしれないな」と思ったのが前野先生の夢を追う姿勢っていうんですかね。その辺りでちょっと一部読んでみたいと思います。
夢を追うのは代償が伴うので心臓に悪いけど、叶った時の喜びが病みつきになってしまう。叶う叶わないは置いておいて、夢を持つと喜びや悲しみが増えて気分良く努力ができる。ビールを飲みたい、あの子とデートしたい、新発見をしたい。夢の数だけ、喜びは増えるから大小構わず夢探しの毎日だ。夢を語るのは恥ずかしいけど、夢を周りに打ち明けると思わぬ形で助けてもらえたりして、流れがいい方向に向かっていく気がする。夢を叶える最大の秘訣は夢を語ることだったのかなと今、気づく。いろいろあったけど、アフリカでのバッタ研究の旅は楽しすぎた。いつまでも消えない余韻に浸りながら、この先も虫たちにまみれて生きていけますように。憧れのファーヴルに少しでも近づく夢のためにも。

ということで本編の最後がこのように占められているんですけど、前野先生、日本に戻られてから自分の母校の高校に凱旋なさって、そこでこうスピーチをなさってるんですよね。そこでもいろいろ話したっていう締めにこれが書かれているんですけど、いいですよね。この叶う叶わないは別として、こう「夢を持つと喜びや楽しみが増えて気分よく努力ができる」っていう。この「気分よく努力ができる」っていいですよね。なんか私も例えばですけど、本を読むのが苦痛だったりとかしたら、役作りとして使い続けようなんて思わないと思うんですけど。やっぱり、本を読んでフィードバックしたことが役作りに使えたりとか、監督に提案しに行くことができたりっていうのがあると、身になったっていうので喜びや楽しみになってるんだなというのはよく思いました。

こんな本が出るとまた絶対に出演依頼殺到するだろうなあっていう風に思っていたら、ちゃんとその当たり前野先生考えておられて、最後にちょっと一言、また書かれてあります。
バッター博士より皆様へ。
いつも応援していただきありがとうございます。新書を出版してから執筆、取材、講演依頼等たくさん声をかけていただきました。しかし、研究と広報活動の二足のわらじを履くことは今の私にはできず、そのほとんどをお引き受けできない状況です。児童書版が出版されたことにより、新たに興味を持ってくださる方がいらっしゃるかもしれませんが、研究に専念するため、そっと見守ってくださいましたら幸いです。新たな研究成果を引っさげて、再び皆様にお会いできることを楽しみにしております。

ね、何かこのあたりも優しいですよね。研究を円滑に、そして人にちゃんと知ってもらうようにということであえてこういうおもしろいブログだったり、本を書いて、注目を自分に集めて、研究ができるようにっていう風に作戦を立てられてやられていることだったので、テレビに出られたりとかっていうのは作戦通りだったと思うんですけど。でもちゃんとまた、アフリカに戻っていかれたんですよ、前野先生は。研究者の本分に戻るっていうところでいろいろオイシイ話とか、もしかしたらアフリカに行って研究してるよりもイイ話みたいのがあったかもしれないんです。それをちゃんと言葉にして自分の惚れているバッタの研究に戻るっていう、このかっこよさもですよね。もう全体を通して、爽やか、清々しい。そんな『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』です。大人の方も是非お子さんに買っても、これ読んだら昆虫好きになって研究者になるかもしれないというぐらいおもしろい本なので是非是非、読んでみてください。


■前野ウルド浩太郎
『バッタを倒しにアフリカへ』
(光文社 2017年)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334039899
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