TBSラジオ『アフター6ジャンクション』
2021年03月03日放送「カルチャー・トーク」より
パーソナリティ : 宇多丸
パートナー : 日比麻音子
ゲスト : 花田菜々子


TBSラジオの番組『アフター6ジャンクション』「カルチャー・トーク」で花田菜々子さんが「とにかくスゴい、スゴすぎるとしか言えない本」として藤岡拓太郎『大丈夫マン』について話されていました。


■藤岡拓太郎
『大丈夫マン 藤岡拓太郎作品集』
(ナナロク社 2021年)
https://nanarokusha.shop/items/5fd85539da019c622bd0ea9c
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宇多丸 さあ、ということで、花田さん、本日は本を選んでいただいてるわけなんですが、こんなテーマで選んでいただきました。日比さん、お願いします。

日比麻音子 はい。“出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった”書店員花田菜々子さんが推薦、「とにかくスゴい、スゴすぎるとしか言えない本」。

宇多丸 だって、花田さんがいろいろ読まれてる中で「スゴい、スゴすぎるとしか言えない」・・・どういう本なの?

日比麻音子 絶対すごいですよね。

宇多丸 スゴさに関してはね。ということでまずは1冊目の「スゴすぎる本」、花田さん、ご紹介お願いします。

花田菜々子 1冊目はくだらないのに何か切ない。藤岡拓太郎『大丈夫マン』というマンガです。

宇多丸 藤岡拓太郎さん、『大丈夫マン』。これ、どういうマンガなんでしょうか?

花田菜々子 これ、基本的にはギャグマンガでちょっと不条理系というか、意味がわからないシュールなものだったりとか、大体ヘンなおじさんが突然登場してきて、ワケのわからない行動にみんなが巻き込まれてしまうとか、そういう感じですごく笑えて最高なんですけど、これがなぜか切ないんですよね。自分の店だったらもちろんコミック、もしくはサブカルチャーの所に置くのが普通なんですけど、なんか詩集、詩の本の所とかに置いてもいいじゃないかなって思えるぐらい、自分としてはポエムというか、詩を感じてしまうような余韻のある作品で、風邪で寝込んでいる時に見る夢みたいな感じでもあって、一方ですごく昔の今まで全く思い出さなかったような思い出を思い出してしまったりとかするような不思議な本なんですけれども。

宇多丸 ちょっと絵柄だけっていうか、藤岡さんの今までの作風からちょっと想像ねえ・・・。

花田菜々子 汚いっていうと失礼なんですけども、小学生の落書きみたいな絵で。

宇多丸 いわゆるヘタウマ的なというか。

花田菜々子 ユニークな感じなんですけど。私が一番好きなマンガが「18才」っていうマンガでこれ、Twitterでもかなり拡散されたんですけれども、藤岡拓太郎さんのTwitterの“固定ツイート”からも見れるのでご興味ある方は是非見てほしいなと。突然、女子高生の教室のシーンから始まるんですけど。

宇多丸 1ページだけだ、これ。

花田菜々子 そうなんです。1ページマンガで「一ノ瀬くん、ウィーンでの生活はもう慣れた?」って、始まるんですけど、一ノ瀬くんってウィーンにも行ってないし、なんだったら架空の男の子なんですよね・・・っていう所から何か話しかけるっていうおもしろさなんですけど、でも、そういう妄想を「バカだね」って笑い飛ばすんじゃなくて、自分としては「このことを描いてくれてありがとう」って、誰もが経験したことなんじゃないかなって思わせてくれるような内容で、全体的にはすごく元気なパワーのあるマンガなんですけど、元気な日じゃなくて「死にたいなあ」って思うような日に効くようなマンガなんじゃないかなって思うんですよね。

宇多丸 へえ。

花田菜々子 最後に突然、お笑い芸人のスリムクラブが登場するんですよ。今までフィクションの世界だったのに「えっ、なんで?」ってなるんですけど。

宇多丸 真栄田さんとか登場すんの?

花田菜々子 そうなんです。「ああ、そういうことかあ・・・」って納得がいくというか、自分と世界がズレてる時に世界はこういう風に見えてるっていうことを藤岡さんってすごく描いてくれてるのかなという気がして、異物を無しにするんじゃなくて、異物とかズレに対しての優しさを感じるマンガなんですね。なので、弱さを大事にして笑い合っていこうって思える、そんなマンガです。

宇多丸 へえ。『大丈夫マン』。ということで藤岡拓太郎さん作品集。こちらはナナロク社から税別で1,000円。カワイイっすね、この表紙。

花田菜々子 ちょっと普通のマンガとも違って、どこのコーナーに置くっていうのも決まらないような。

宇多丸 アート本的な作りでもある。

花田菜々子 なんとも言えないマンガなんですよね。

宇多丸 なるほど、なるほど。わかりました。『大丈夫マン』、まずはお薦めいただきました。


■藤岡拓太郎のTwitterのツイート